町田市の税理士 高橋浩之 です。
<日本文学全集>
利益
鼻社の利益といえば、この界隈で知らないものはない。
創業以来、赤字はなく、安定して利益をだしている。
金額は、ひとが心底うらやましがるほど多い。
いわばジャンボ宝くじの1等賞金ほどの利益を毎年計上しているのである。
鼻社長は、創業した日から今日まで、始終この利益を苦に悩んでいた。
もちろん、表面では利益などさほど気にならないような顔をしてすましている。
鼻社長が利益をもてあました理由はふたつある
ひとつは同業者の視線、である。かれらは、利益が多いのはよからぬことをしているからだと言った。わるいことをしなければあのような利益があるまいとおもったからである。
けれども、これは決して利益を悩んだおもな理由ではない。
鼻社長は、この利益にかかる税金のために苦しんだのである。
そこで、まず鼻社長が考えたのは、この利益を実際以上にすくなく見せる方法である。だが、税法の許す範囲でこれをするには限りがある。
自分でも満足するほど、利益がすくなく見えたことは、これまでにただの一度もない。
こういうときは、鼻社長はいまさらのようにため息をついて、不承不承に税金を支払いに行くのである。
ところが、ある年のこと。
社員が知己のものから利益をすくなくする法を教わってきた。
鼻社長は、いつものように、利益のことなど気にかけない風をして、わざとその方法もすぐにやってみようとは言わずにいた。
そうして、一方では内心、社員が自分を説き伏せて、この法をこころみさせるのを待っていたのである。
予期どおり、社員は口を極めて、この法をこころみることを勧めだした。
その法というのは、ただ、おカネを使いまくるという、きわめて簡単なものであった。
鼻社長は、ただやみくもにカネを使った。
利益をすくなくし、税金を減らすためだけを目的に使った。
使いつづけた。
つづく
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