町田市の税理士 高橋浩之 です。
<日本文学全集>
利益(その弐)
<前回のあらすじ> 多くの利益とそれにかかる税金に長年悩まされてきた鼻社長。 その鼻社長が利益をすくなくする方法を知った。 それは、おカネを使いまくるという、きわめて簡単なものであった。 鼻社長はカネを使った。 利益を少なくし、税金を減らすためだけに使った。使いづづけたのだった。 ![]() |
すると、
利益は――、鼻社長を苦しめた税金のもととなる利益は、ほとんどウソのようにすくなくなって、いまはわずかにその残滓をのこしているにすぎなくなった。
鼻社長は、法華経書写の功を積んだときのような、のびのびした気分になった。
これでもう税金で悩むことはないにちがいない。
鼻社長は、決算書を見て満足そうに眼をしばたたいた。
ところが、ときがたつ中に、鼻社長は意外な事実を発見した。
それは、通帳の残高がどんどん減っているのである。
間違いはないかと、経理に問いただしたのは、一度や二度ではない。
鼻社長ははじめ、これをいっときのことだと解釈した。しかしこの解釈では十分に説明がつかないようである。
――税金を支払っていた前にはこんな通帳の残高がどんどん減り続けることことはなかったで。
鼻社長は、通帳の残高が多かったころのことを思い出して、まさに「今はむげにいやしくなりさがれる人の、さかえたる昔をしのぶがごとく」ふさぎこんでしまうのである。
――鼻社長には、遺憾いかんながら、この問に答を与える明が欠けていた。
――一般に中小企業の社長のこころにはたがいに矛盾したふたつの感情がある。利益を出したいが、利益を出せば税金がかかる。
利益がなければ税金は支払わなくてよいが、その前におカネがなくなってしまう。税金は100%ではないので、税金を支払った方がおカネがのこる。――鼻社長は、理由を知らないながらも、何となくそのことに感づいた。
鼻社長は、ただやみくもにおカネをつかうことをやめた。
税金をすくなくするためだけに、おカネを使うことをやめた。
鼻社長は、しばらくして、またあの利益が元のとおり多くなっていることを知った。
そうしてそれと同時に、利益がすくなくなったときと同じような、はればれとした心もちが、どこからともなく帰ってくるのを感じた。
――こうなれば、もう通帳の残高がどんどん減り続けることはないにちがいない。
鼻社長は、こころの中でこう自分にささやいた。税金の納付書をあけ方の秋風にぶらつかせながら。
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